深巳琳子 『沈夫人の料理人1』 ISBN:4091854931

お金持ちに買われてきた天才料理人と、その家の主婦とのSMな関係が話題のお料理漫画。主婦であるところの枕夫人は、おいしい料理を食べることが何よりも楽しみで、新しくやってきた料理人に無理難題をふっかけては、料理人の様を楽しむ。いびればいびるほど面白い料理を苦心惨憺の体で考える料理人を眺めることそのものが料理をおいしくする、というのに加えて、本当に料理がおいしくなる、というのもあるのらしい。

で、いろんな感想文にSMな関係、とあるのだけれども、この漫画にはそういうには少し違和感を覚える異様さが、ある。SMな関係をプレイしているのではなくて、だって本当に、主人と奴隷なのだもの。というと、「これこそ本当のSM」みたいな言い方になってしまってよろしくないけれども、おそらくそれに、すこしちかい。奴隷制を描いているから異様、なのではないけれども、奴隷を持つことがあたり前の世界において、SM的な関係の中に存在する愛情みたいなものはいっさいない。お互いの依存関係もないけれども、「そうしないと殺されるから一生懸命おいしい料理を作らなければならない」立場にあるはずの料理人はそれをこえて「奥様」にまぶしい眼差しを注いでいる。それはもう単純に、馬鹿である。
この種のものの常として、料理なんか別にどうでもいい。どちらかというと天才漫画。でも、これほど情けない天才も珍しかろー。という訳で、なんか目がはなせない。