佐藤亜紀 『バルタザールの遍歴』 ISBN:4167647028

tokunai2003-10-25


カスパール、メルヒオール、バルタザール。その一族直系の男子の名前は、東方からベツレヘムに訪れた学者の名前からとられる。名付けられた体はメルヒオール。しかし、体内には二つのゴーストが宿っていた。それが単純に、二重人格とかではないというところがこの物語のまず、目を引くところではある。ハプスブルクの流れを汲む貴族。しかし、共産主義が台頭し、ドイツにはヒトラーが現れる頃の、である。物語は、ひたすらに、転落してゆくその人々の独白(あるいはかけあい)によってなされる。

物語として、デカダン、というよりは、ほんとに転落してゆく貴族を描いていて、確かに面白いのだろうけれども、どこか、勝手にやってろ感が強く残る読後。それはなにか、主人公が己の生に対してどこまでも投げやり(そしてそれは、おぼっちゃまらしさによって補強される)であるところに、あるのかもしれない。みていて腹立たしいほどに、没落してゆく貴族を描けるのはすごいのかもしれないけれども、何か意味があるのか分からない。思い出したのは『シェルタリング・スカイ』。しかし、比するとこの物語は、全く、ただのなにもない、物語のようにみえる。それとも何か読み落としでもあるんだろうか。

ものすごくどうでも良いけれど、聖書を眺めてみたところ、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネのいずれの福音書にも東方からの学者の名前などのっていなくて、しかも、マタイでは学者になってるけれども、ルカでは、羊飼いが訪れたことになっていて、じゃあ、一体誰がその人々の名前を付けたのだというのは結構、疑問。あるいはどういう人たちの間に流布しているものなのか。日曜学校ではそういうお話があるんだろうか。はたまた福音書以外のところにはきちんと名前が出てるのか。
ハプスブルク家の末裔なら多分カトリックだろうしなあ。一介の「歴史好き」の立場を超えて書かれている小説であるのは確かで、多分意味がある、というか、出典がある話であるはずで、誰か知っている人がいたら教えてほしー。