夏目漱石 『吾輩は猫である』 ISBN:4480021612

寝物語にとても良い。冗長で、いろいろと他愛のない事件が起こるにせよ、世界が平和である。ので、いつでもどこでもすぐやめられて、しかも、眠りを誘う。かなしいことに漢文に対する造詣の深くない私にとって、注釈はかかせない。ちくま文庫版の注釈はしかし、とてもうるさい。笑いをとっている文章で笑いの解説をしてどうするのか。韻を踏んでる、とか。気勢のそがれること甚だしい。
多少病的である。という指摘は既に数多くなされているが、そういう視点をふと持つと確かに恐ろしい。始終誰かにみつめられている。となりの学校の生徒がうるさいのも近所の金満家の陰謀である。等等。戯画化や滑稽味のなかにそれらは隠されているせいで、気が付かないように読むことは可能である。
しかしラストは、ひどくかなしい。それは作者によって、唐突に、戯画化された世界そのものが否定されるからなのだろう。あー、奥泉光 『「吾輩は猫である」殺人事件』ISBN:4101284210 が読みたくなった。