山之口洋 『オルガニスト』 ISBN:4101014213

話の内容に反して書き方がずいぶん落ち着いてるのは、作者の歳のせいなのか。『ムジカ・マキーナ』とこれを比べる人が多いけれども、圧倒的に『オルガニスト』の方がすまーと。そして、『ムジカ・マキーナ』が読みにくい、という人も割といて、それはたぶん、文章そのものが発する情熱みたいなものが、過剰であるせいなように思える。んで、なんとなく、作者の年齢の差を比べてみたくなってしまった。安直にも。おそらくその、「下手さ」ともいえてしまうようなじょうねつてきなかんじー、というのが、『オルガニスト』には足りてない。話の内容に反して。それがなんだかひどくもどかしい。
そのむかし、どこかで池内紀が『ファウスト』を評して、ファウストの持つ欲望をはらむ何かが、老人のそれではないと、枯れてきた今になって思う。というよなことを書いていて、なんとなくそれを思い出してしまったのだった。昔はそんなことはあるまいと思っていたけれども、物心ついて以来、年を重ねるごとにそういうことはあるかもしれないと思えてくるのだった。

文庫化にさいして本書は、なんと、語り手の人称を変えてしまったそうである。解説者の瀬名くん曰く、それが非常に効果的、なのだそう。そしてそれは、著者の作品制作の姿勢そのものにも何か影響を与えていることのようなので、文庫で読まれるべきものようだ。てーか、なんかすごいけどな。