酒見賢一『語り手の事情』 ISBN:4167656108

何でかこれをエッセイだと思っていたのだけれども、メタフィクション。もっとも著者はそれを否定しているけれども。しかしながら、メタフィクションではありません。恋愛小説です。というのはやはりおかしい。メタフィクションであり恋愛小説だと思う。

物語は、物語の「語り手」が現実に存在する世界において、その「語り手」の語っている物語であるという形式で展開される。「語り手」は、とある屋敷にとどまっており、そこには性的な妄想を抱えた人々が訪れる。たとえば、童貞の時にはやっさしい淫乱のおねえさまが性の手ほどきをしてくれると信じ込んでいる少年、女性になりたいおじさん、など。妄想を抱える人々が、屋敷の亭主に屋敷に招かれ、「語り手」にそのことを話し出すというところから各話は始まる。「語り手」の人称によってつづられる物語は語り手の見聞きしたものに依拠して展開されるが、途中、「語り手」が「語り手」であることの不自由さについても言及される。しかしながら、メタフィクションと称するには、たしかにいささか話に深みがなさすぎる。

酒見賢一は割に単純に、(べったべたの)恋愛小説かくのが好きなんだろーなーと予想する。『後宮小説』があんまりにこどもこどもじみているなら、『語り手の事情』はさしずめそれの大人版というところであろーか。でも、後宮を題材にしつつ性愛小説になっていない小説を書いてしまうところとか、性愛や、性的妄想について語りつつも一向にポルノ小説とは読めないような小説を書いてしまうのは、それはそれで興味深いのだけれども。でもなー。おちがあいってゆーのがなー。